長男の妊娠③~退職~
私が働いていた保育園は、わりと大規模園で、とても厳しいけれど愛のある園長先生と、にぎやかで何でもそつなくこなしてしまう主任。
そして、みんな仲が良く助け合いながらがんばってきた保育士のみなさん。
おいしい給食を作ってくれて、世間話をたくさんしてくれた栄養士のみなさん。
本当にたくさんの方たちに支えられて、
指導されて、
何とかやってこられました。
何度もくやしくて泣き、
悲しくて泣き、
でも子どもの前では笑顔でいなきゃいけない。
理不尽なことばかり言う親に、
何度も頭を下げる。
日々追われる保育に加え、行事が近づく度に増える仕事量。
残業。持ち帰り…。
それに比例しない給料。
つらくて逃げ出したくなったときも、
辞めたいと思った通りときも、
立ち止まれたのは、職場のみなさんがいたからでした。
何より、やっと園長や主任に認めてもらえたことを実感してきた頃で。
期待してくれて新たにクラスを持たせてくれて。
それを裏切るような気がして、本当に申し訳なかったです。
でも、自分の口で言わなきゃいけない。
ただ、婚前に妊娠してしまった、だけでは済まない。
退職となると、話は違ってくる。
それがどれだけ迷惑をかけることか、良く分かっていました。
私は覚悟を決めて、職員室に向かいました。
ドアを開けようとしたとき、廊下まで主任が出てきました。
「どうした?何かあった?」
心配してくれる優しい声に、涙腺がゆるみました。
「……もしかして、赤ちゃん、できた?」
「!!!!!」
「どうして、わかるんですか」
「先生たちのことはよーく見てるから。
そんな思い詰めた顔してたらすぐわかる。
あとは、女の勘かなぁ。
でも、うれしい報告じゃないのかな?
何かあったのね」
ニシシと満面の笑みで話す主任が、神様みたいに見えて、
こういう人が人の上に立つんだな、
子どもたちの先生になるべきなんだな、
と、自分が恥ずかしくなりました。
入籍前に妊娠してしまったこと、
仕事の継続は不可能ということ、
全て話しました。
そして、何度も何度も謝りました。
園長と主任は、うなずきながら、優しい目で聞いてくれました。
私は、親に言い訳をしているような気持ちになり、なんて子どもなんだろうと思いました。
「先生。厳しいことを言えば、何でこの時期に、と思う。保護者にも、担任になって間もない時期に伝えるのは、よく思われなくて当たり前。」
「でも何より、先生と働けなくなるのが悲しい。これからもっと成長して、いい保育者になっていくのを見ていたかった。」
私は"はい"しか言えず、泣かないように唇をずっと噛んでいました。
そんな風に言ってもらえるとは思っていなくて、驚きました。
「1番大切なこと言うの忘れちゃった!
本当におめでとう。
赤ちゃんは今しか大事にできないけど
保育士は何度だってやり直せるのよ。
いつかまた一緒に仕事しましょうね。」
そんなあたたかい言葉をくれました。
声を出して泣いたのは子どものとき以来かもしれない。
情けなすぎますが、号泣しました。
その日、職員会議がひらかれ、私の退職が伝えられました。
みなさん、私を気遣い、本当にありがたい言葉ばかりかけてくれました。
仲の良かった男の先生は
「もーそんな落ち込むなや!
うれしいことなんだから!
仕事の穴埋めなんて、どうにでもなる。
自分のことも周りのことも、もっと信じなって!
子ども、可愛すぎて、産んだら俺らのことなんて忘れるから!笑」
私は、本当に恵まれた環境で仕事をさせてもらい、幸せ者だと改めて感じました。
泣くだけ泣いて、これ以上落ち込んでいたら迷惑なだけだ!と吹っ切りました!!
保護者への挨拶を済ませ、
(園長先生のご厚意で、病気による療養ということにしていただきました)
引き継ぎの仕事を終わらせ、
子どもたちに挨拶とプレゼントを渡し、
園の写真を撮りまくり、
私は退職しました。
~続く~